上の詩は、1822年にニューヨークに住む神学者クレメント・クラーク・ムーア(1779〜1863)が、自分の子供たちのために作ったと伝えられる、「聖ニコラスの訪問」です。
この詩の中で聖ニコラスは、初めて八頭ものトナカイがひく、ソリに乗って空を飛ぶこと。まるまると太ったおじいさんであることが、語られました。
この中では、まだ「小人」として登場していますが、それ以外は私たちが、サンタクロースと聞いて思い浮かべる、やさしくて気のいいおじいさんの姿や、トナカイソリのイメージがそのままかかれています。そう、サンタクロースのイメージは、このムーアの詩によって生まれ、広く定着していったのです。
その後、アメリカは南北戦争(1861〜1865)を経て、飛躍的な経済成長をとげます。この時代に活躍した画家に、トーマス・ナスト(1840〜1902)がいます。
ナストは政治イラストレイターとして活躍するかたわら、サンタクロースの絵を描くという、別の顔も持っていました。ナストのサンタクロースは、1863年に「ハーバーズ・イラストレイテッド・マガジン」誌上に登場し、その後さまざまな雑誌に掲載されて、最終的には「トーマス・ナストのクリスマス絵画集(1890)」として、編集出版されました。そして、これ以降、サンタクロースは一気に知名度を高め、雑誌広告やデパートの売り場で、活躍を始めることになります。
では、ナストが描いたサンタクロースとは、どのようなものだったのでしょうか?ナストのサンタクロースは、全身を毛皮服で包んでいます。もともと、ムーアの「聖ニコラスの訪問」の中でも、サンタは毛皮の服を着ていたのです。そして、ナストのサンタクロースが着ている毛皮服には、注目すべき特徴があります。現代のサンタクロースのガウンが赤いのと同様に、ナストの毛皮服も赤っぽいという点です。
そして、サンタクロースのモデルである、聖ニコラウスがキリスト教の司教であり、古来、司教服がつねに赤かったことも、知っておくべきかもしれません。
この司教の赤色は、自らの身体や命をなげうってでも、信者たちの幸せのためにつくすべき司教の覚悟。
すなわち彼が流す血の色を示すと言われます。もっとも、司教服の赤は、どちらかといえば紫に近い赤色ですから、光の加減によっては、青に近い色に見えることがあったかもしれませんね。
ムーアの詩の中の小人のおじいさんが、ナストによって、より具体的な形で発表されたあと、前述の「ザ・サタデー・イヴニング・ポスト」で、いわゆる”富める階層”を中心に、サンタクロースが知られて行く事になります。そうして、始めにご紹介したコカ・コーラ社の手により、広く世界中に、広がる事になった訳です。
もっとも、ナストから始まり、ジョゼフ・C・ライエンデッカー(1874〜1951)、ノーマン・ロックウェル(1894〜1978)が「ザ・サタデー・イヴニング・ポスト」の表紙に描いたサンタクロースと、コカ・コーラ社のサンタクロースを描いた、ハドン・サンドブロム(1899〜1976)のサンタには、決定的ともいえる違いがあります。それは・・・
サンドブロムのサンタクロースは、『あどけない童顔である』という点です。細かいことを言えば、ライエンデッカーのサンタとは、「帽子の先に金色の鈴が付いている」、「ガウンにも金色のボタンが付いている」、「靴が紐靴からロングブーツになった」という違いがありますが、それ以上に大きな違いとして感じられます。
そして、それは「家族で過ごすクリスマス」という生活様式の変化のシンボルとして、女性層を中心に好意を持って、受け入れられることにつながっていったのでした。
(ライエンデッカーのサンタは、同じように太っていて、赤い服を着ていますが、「陰気」に見えたため、全ての人に歓迎されるまでには、至りませんでした。)
今の私たちが「サンタクロース」に対して持っている、様々なイメージは、実にこのサンドブロムの手によって、創造されたといっても、決して過言ではありません。誰にでも、それこそ国籍・人種を問わず、文字が読める読めないにかかわらず、浸透できたのは、ひとえにコカ・コーラ社の広告宣伝力によるものだと、いえると思います。
青や紫、白の服を着たサンタクロース。きっとあなたは、「そんなサンタがいる訳がない」と、初めはお感じになったことでしょう。
でも、歴史の中にちゃんと存在していたのが、お分かりいただけた事と思います。そして、何人ものクリエイターの手を経て、私たちが良く知っている、サンタクロースのイメージが形作られていきました。そして、もっとも大切な事は、一般の大衆が「喜んで受け入れることの出来るイメージであった」という、点にかかっているのだと思います。
もしもコカ・コーラ社が、キャラクターとして採用していなければ?
ひょっとすると、まだ様々な色の服を着たサンタクロースが、世界中を飛び回っていたのかもしれませんね。
「今年のサンタカラーは、”青”が主流です。」なんていう、流行情報もあったりして・・・。(それはそれで楽しいかも?)
長い文章にお付き合いいただき、ありがとうございました。
2001.01.23.
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